真空パックとスピーカー

久石ソナ @sona_hisa は日常と作品の中に住む準備をしています。

水脈とそこから開かれる光

差しこまれたのは日差しと暖房機の音。世間はあっという間に冬であった。鳥の鳴き声がひどく震えて聴こえるのは、寒さのせいだけではなくて。ゴミを出す。私から生まれてゆくゴミはビニールのきらきらに包まれて、雪がさらに包み込もうとしている。指先から伝わるのは朝の水脈。水面の膜は今にも破けてしまいそうなほど脆く、私の指先はそれをつねに沿わせられている。ゴミステーションの前でタバコをふかし、消えてゆく煙のなかのわずかな温もりを探している。空を見上げれば積雪を運ぶ準備を進めていた。都会にはいまだかつてないほどの自信が積もるばかりで私は、ゴミステーションの前で立ち尽くしながら、ただ祈るように眺めている。水脈に繋がれている私は、人のあらゆる声を拾い集めていたが、それらはいずれ錆びてしまうことを知っている。ねえ。朝の大移動が始まる。足音が渦となってあらゆるものを飲み込もうとしている。それに抗う自信たち。タバコを吸い終わり、ゴミとして追加させたとき、生きていることを実感する。一日が歩き出す。水脈が揺れ始めて雪の瞬きが濁りだす。爪の薄さが気になりつつ。ゴミ回収時間までにはまだ時間がある。

北海道新聞文学賞。そして、日常へ

きちんとした形で思ったことを綴っていなかったので、昨年の北海道新聞文学賞のことについて書こうと思う。これは自分自身の日記として位置付けて。

 

候補作に選ばれました、と電話をいただいたのは昨年の9月頃で、ちょうど仕事をしていたときのことであった。お店とお店の隙間のスペースで電話をしたときに、広い大地に帰れるかもしれない、と思いつつすぐさま仕事に戻ったのを覚えている。

候補作に選ばれた、という電話の時に10月のいついつに最終選考があるので、電話に取れるようにしておいてください、と言われた。

よく芥川賞直木賞の時に作家らがバーや喫茶店で電話を待つあれができる!と思い、その日はどこかのバーで飲みながら電話を待つ計画を立て、ついでに大ヒット上映していた『君の名は。』のチケットを購入した。

最終選考当日、受賞していたら電話が来る時間帯に私は、新宿歌舞伎町で適当なバーを探していた。バーを探している最中に電話がかかってきて、受賞の知らせを受けてしまい、嬉しさと電話を待つ企画ができなかったなあ、と少し後悔しつつ映画館へ向かった。

 

北海道新聞文学賞の受賞者発表の日、朝刊に載っているよ、と家族から写真を送ってもらった。

 

 

東京でインタビューしていただいた時の写真と内容が掲載されるのは、なんとも不思議な気分だ。

同時に、私を見て!なんて姿勢をすることに抵抗があるのは、自分に自信がないからなのだと思った。インタビューは自分を語らなければならない。ブログや日記もそれに近いところがある。自分語りの練習なのだ。

 

授賞式当日に休みを取って、北海道へ向かう。飛行機の中で授賞の挨拶を考え、新千歳空港に降り立った。

授賞式までには時間があったので、そのまま小樽へ行き、寿司を食べ、冬の海を眺めて、喫茶光でコーヒーを飲む。

日常がどのようになっていくか、というのはわからないことだが、自分の日常がこんな風な時間を歩むとは思ってもいなかった。だが、飲み込むのに時間はかからず、静かに、素直に授賞式を迎えた。

控え室で他の受賞者方や関係者方と挨拶をして、緊張したまま拍手の渦へ飛び込む。祝う側には敵はいないが、祝われる側になると敵がいるんじゃないか、と疑ってしまう。そんなことはないのだと、わかっていてもそう感じてしまうのは悪い癖だ。

懇親会を終え、二次会に参加した後、北大短歌のメンバーで三次会を開いてくれた。阿部嘉昭さんと松尾真由美さん、田中綾さんも駆けつけてくれた。すすきの近くのダイニングバーでお酒を飲み、こんなにも祝われるなんて、なんて素敵な日なのだろう、と泣きそうになる。

 

 

深夜の大通り公園。ちらちらの雪。テレビ塔の電子時計。

夜でも明るい街に溶け込みながら、これが日常として訪れていて受け入れている自分自身がいるとは!最高にやばい光たちだ!

北大短歌で題詠「久」「石」「ソナ」の歌会を開いてくれた。愛だなあ。愛に溢れた大地だなあと思いながら東京へ。

 

受賞した『航海する雪』は、学生時代から社会人になることまでをまとめている。

それからのことをまとめた詩集の準備も少しずつ進めている。

 


久石ソナ第一詩集『航海する雪』(第50回北海道新聞文学賞詩部門本賞受賞)の通信販売をしています。詩を書き始めてからいままでの作品、全25篇を収録しました。
文庫本サイズ100ページ
価格1500円

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通販をご希望の方は、件名を「航海する雪通販希望」として、
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振り込んでいただく金額および振込先の口座を返信いたします。 振込先に入金を確認後、商品を発送いたします。 送料は無料です。海外の場合は、別途ご相談ください。

 

よろしくお願い致します。

 

 

 

並走する電車

東京にひ弱な雪が降る。

これは積もらない方の雪だからすくうことができない。

電車の並走のとき、窓に映る人たちが運ばれているのがわかる。それぞれがそれぞれの帰る場所があり、それぞれの人生の時間を歩んでいると想像したとき、私にはすくいきれないほどの膨大な情報が押し寄せてくる。

並走する電車に乗る人の中に、私のような並走する電車を眺めている人はあまり見かけない。携帯をいじっている人や本を読む人、眠る人。それぞれが時間の使い方をわかっているように感じる。

並走する電車に乗るサラリーマンは今、背中の汗が気になっているかもしれない。あるいは、女子高生は履いているソックスがずれ落ちていて、それを気にせず携帯をいじっているかもしれない。見えないところの情報を想像でしか補えない。月が追いかけてくる。

明日もこの時間になれば並走する電車に乗り込んだ人々の横顔が見える。

 

 

海が連れてくるもの

季節を味わうなら海がいい。海は季節を映し出してくれる。この間、江ノ島の冬の海を見にいった。冬と海。それぞれがそれぞれを呼び合っているように、風はあまりにも冷たく、波は休まず震えていた。

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海が舞台の歌はたくさんある。そして、海を渡る歌は渡るまでの気持ちを歌に乗せている。

 

海と少年/大貫妙子

https://www.youtube.com/watch?v=XxtiD0YrJz4&feature=share

 

進水式/KIRINJI

https://youtu.be/OTLUOgi8Fl0

 

海を渡る雪(一部抜粋)/久石ソナ

今遠くの海で

海を渡る雪が舞っている

その核心だけが先走り

連れてってくれと思うほど

都市に降る雪は弱さばかり見せつけていたと

記憶している

 

 

どうか、どうか、と海へ祈りを捧げるほどの静けさと波音が聞こえてくる。

 

 

東京に住むということ

昭和から続く人形町のお好み焼き屋で会計を済ませた時、女将さんから「持っていきなさい」と言われてアイスシューを渡された。

東京の冬は北海道よりも寒く感じる。そんなことを道民出身者は常々感じるらしく、私もそう感じる。

アイスシューを食べながら夜道を歩き、コンビニでお酒を買ってホテルへ戻る。今は東京に部屋を借りている。なので、自分の住む街でホテルに泊まるのは、なんだか不思議な気分だ。とくにホテルに泊まる必要があったわけでもなければ、そのホテルの朝食が食べたかったわけでもない。ましてや、ラブホテルで恋人と夜を食すわけでもない。どこにでもありそうなビジネスホテルに泊まり、東京の一夜を見届けようではないか、という心持ちであった。

実家の札幌でホテルに泊まったことは二度ある。一度目は北海道旅行に来た友達とホテル泊をしたこと。二度目は道新文学賞の授賞式の日に用意してくれたホテルである。ホテルに泊まると私は、この街に迎え入れられている、というような気持ちになる。

東京にホテルを用意したのは自発的なことで、予約サイトで手頃なホテルを探してクリックしただけであった。

私は、東京に住んでいるという自覚が足りないのかもしれない。雪道にできる足跡を見て、私はここに存在するんだ、という明確な証拠が東京にはなかなか生まれない。東京で私の骨を埋めようという気持ちはさらさらない。

ホテルからの夜景はあまりにも眩しくて、そうかだからカーテンはこんなにも厚いのか、と気付かされる。旅人にはその街の喧騒(それはあらゆる言葉の集合体である)を見せないのか、と知らされる。

何かを告げられたような気がする。それが何なのかは自分で探せ、とも告げられている。

連作「雨が降れば」

歌壇賞に応募した連作です。

 

雨が降れば
久石ソナ


バーコードの筋から徐々に焦げだしてレンジを開ければ温かな飯


歯ブラシは次第に開花するもので今日が満開なのだと決めて


急かされているのは雲ですごく速い 帰宅の車内で日付を跨ぐ


シャッターを降ろせばそこに過去があり笑顔の人がこちらを見てる


ブラインドタッチの音を響かせるオフィスのいたるところにまばたき


怪物の卵を多く身につけたみたいなビルが灯るだなんて


提灯に書かれた文字を読んでゆきこれは取引先の社名だ


低い熱をいだいて精密機械らは充電されて迎えれば朝


雪だった 子供の声が届くので折りたたみ傘を取り出してみる


ほころびは気づいたときにできていて縫えば本日休日だった


足音がやけに大きいコンビニの深夜を守る店員はひとり


朝靄でビルの頭は見えないが迷わずにゆくことはできるが


春雷のせいだと思う 感情のいくつか生まれでない体は


左目はたまに魚が住み着いてぴくぴく動き出すので陸だ


もしものときは連絡できるようにしておくから今は裏返して置く


脱ぎ捨てたシャツを拾えば汗まみれ飲むべき薬を飲んだだろうか


休日のビル街こんなに道幅が広くさらには続いていたのか


紛れもなくだれかを呼んでいるだろう休みなく鳴く目覚まし時計


暗くなるところは部屋でスポンジの滴る水の音のみ届く


夜を抜けて夜行列車はたどり着く故郷の雪は連れてこないが


海のようにあたり一面揺れているこれは綺麗になった服たち


すれ違うたびに傾く傘があるそういうふうに育てられたか


控えめな湯沸かしポットに水を入れ徐々に高まる水の叫びが


家を出る前になんども確認をしてしまうけど風速は0


雨が降ればビニール傘をさす夜のひかりが休みにきてくれるんだ


国道に捨てたらいずれ粉々のライターだろう散らばるだろう


人々の息は聞こえてこないけど止まないほどに屋根が連なる


コーヒーはぬるめであればあるほど良い午後の業務はこんなにも雨


空調とそれから豪雨 寒いので今日はそろそろ はい 帰ります


新しい髭剃りを出すこれからを生き抜くぼくのための準備を

久石ソナ第一詩集『航海する雪』通信販売はこちら

 

人工衛星ははやいいきものでしたが、つねに浮いていて、地球のことをよく考えていました。人工衛星はみずから地球に関わるお仕事をしていて、それは生まれたときから望んでいたお仕事でしたから、外が暗くても働いているのでありました。地球からたまに支給されるあたたかい薬を飲んで(そのたびにゴミが増えるから、息がしづらい)人工衛星はいきています。人工衛星はよわいいきものです。だからこそ、つねに完璧でなければなりません。そうやって生活をする。

数センチメートル


久石ソナ第一詩集『航海する雪』(第50回北海道新聞文学賞詩部門本賞受賞)の通信販売をしています。詩を書き始めてからいままでの作品、全25篇を収録しました。
文庫本サイズ100ページ
価格1500円

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