真空パックとスピーカー

久石ソナ @sona_hisa は日常と作品の中に住む準備をしています。

連作「雨が降れば」

歌壇賞に応募した連作です。

 

雨が降れば
久石ソナ


バーコードの筋から徐々に焦げだしてレンジを開ければ温かな飯


歯ブラシは次第に開花するもので今日が満開なのだと決めて


急かされているのは雲ですごく速い 帰宅の車内で日付を跨ぐ


シャッターを降ろせばそこに過去があり笑顔の人がこちらを見てる


ブラインドタッチの音を響かせるオフィスのいたるところにまばたき


怪物の卵を多く身につけたみたいなビルが灯るだなんて


提灯に書かれた文字を読んでゆきこれは取引先の社名だ


低い熱をいだいて精密機械らは充電されて迎えれば朝


雪だった 子供の声が届くので折りたたみ傘を取り出してみる


ほころびは気づいたときにできていて縫えば本日休日だった


足音がやけに大きいコンビニの深夜を守る店員はひとり


朝靄でビルの頭は見えないが迷わずにゆくことはできるが


春雷のせいだと思う 感情のいくつか生まれでない体は


左目はたまに魚が住み着いてぴくぴく動き出すので陸だ


もしものときは連絡できるようにしておくから今は裏返して置く


脱ぎ捨てたシャツを拾えば汗まみれ飲むべき薬を飲んだだろうか


休日のビル街こんなに道幅が広くさらには続いていたのか


紛れもなくだれかを呼んでいるだろう休みなく鳴く目覚まし時計


暗くなるところは部屋でスポンジの滴る水の音のみ届く


夜を抜けて夜行列車はたどり着く故郷の雪は連れてこないが


海のようにあたり一面揺れているこれは綺麗になった服たち


すれ違うたびに傾く傘があるそういうふうに育てられたか


控えめな湯沸かしポットに水を入れ徐々に高まる水の叫びが


家を出る前になんども確認をしてしまうけど風速は0


雨が降ればビニール傘をさす夜のひかりが休みにきてくれるんだ


国道に捨てたらいずれ粉々のライターだろう散らばるだろう


人々の息は聞こえてこないけど止まないほどに屋根が連なる


コーヒーはぬるめであればあるほど良い午後の業務はこんなにも雨


空調とそれから豪雨 寒いので今日はそろそろ はい 帰ります


新しい髭剃りを出すこれからを生き抜くぼくのための準備を