真空パックとスピーカー

久石ソナ @sona_hisa は日常と作品の中に住む準備をしています。

空の観測家

空の観測家
久石ソナ

彼は空の観測家であった。
窓辺の深緑の椅子に腰かけ
日々の空を記録して生きている。
今は夕暮れを迎え入れようとする空。
その時間がもっとも変化の激しさを感じさせる
と、彼はノートに書き込んでいる。
また、朝の空がもっとも好きだと彼はノートに
それは何度も書き込んでいた。
(彼の手は砂漠のように潤いとはかけ離れている)
澄み切った空の遠くには
大山脈の頂たちが輝いている。
それは朝の空で、その時だけは
彼の筆の速度はゆっくりと時間との対話を
楽しんでいるようだった。
人々が生きるために身支度を始める。
(彼はふいに涙をこぼし蒸発するまで筆を置いて過ごす)
昼の空には人々の声が飛び交う。
窓辺の向こうに、
あらゆる感情の声が空を彩らせてゆく。
澄み切った空はそこにはもうなかった。
生きるための、怒りや悲しみが
海のように波打つのだ。
(彼は右目についた目ヤニに気づかない)
次のページへ捲る。
彼は空の観測家であった。
夜になれば、地平線からひかりが
ぽつりぽつりと灯る。
妻を愛し、友と戯れる声が空となってゆく。
眠るものは怒りの声を発しない。
時間が空を清くする。
朝になればまた澄み切った空が彼を待っている。
彼は空の観測家であった。
日々の空を記録して
次のページへ捲る。